株式会社 帝国データバンク 宇都宮支店  古川 哲也 支店長


栃木県の経済情勢と中小企業の動向

県内経済の実態
古川 哲也支店長
古川 哲也 支店長

 講演や、企業訪問の際に経営者の皆様からよく「県内の経済はどうなのか・・・」と質問を受けます。リーマンショック以降、世界的な景気後退の影響から国内も混沌とした時代を過ごし、やっと回復の兆しが出てきたかというところで東日本大震災の発生と、栃木経済は激動の時を重ねていると云えるでしょう。少し実態を把握して頂くために、いくつかの統計数値を見ていきましょう。
 まず、栃木県の特徴的な数字のお話しです。県内総生産の構成比ですが、栃木は第二次産業の比率が36・7%と極めて高いのです。滋賀、静岡に次いで全国3位にランクされており、日本全体の構成比22・8%と比べると、実に14ポイント近く大きい事が分かります。まさに「ものづくり大国」なのです。
 大企業の大型工場を誘致して、下請け業務を確保することで県内中小企業を育成し、地元採用を活性化させて雇用を拡大させる政策が奏功した結果なのでしょう。
 「お金持ち」も特徴の一つだと思います。1世帯あたり消費支出は全国3位、1人あたり県民所得は全国9位、新築住宅着工戸数は全国15位と、人口規模と比較すると明らかに多いのです。そのまま持ち家率の高さにも繋がっているなど、高いレベルでの個人消費が県経済を支えている事は事実でしょう。 しかし、企業業績については残念ながらまだまだ回復が遅れているといわざるを得ません。
 弊社が集計した「黒字企業、増収企業占有率」を見ると、栃木の黒字企業は25・1%、前年に対して今年の売上高が増加している増収企業占有率も25・1%と大変低調です。
 深刻なのは震災から2年が経過しても、中小企業の4社に3社は年商がまだ下がり続けているという事です。 これではキャッシュフローは生み出せませんし、設備投資に目が向かないのも当然でしょう。さらには法人税や事業税など法人からの税収が低調な中では、県の財政も回復できません。
 もう一つ違う目線でお話しします。企業マインドがどうかという点です。弊社では、毎月景気動向調査を実施しています。その結果は別表の通りなのですが、「DI」という数値で表されています。景気が良い・良くなっていると感じている企業の割合を表したもので、景気を図る一つの指標となっています。
 実は震災直後に、栃木は県別順位で47都道府県中43位にまで落ち込みました。今年1月の調査でも、その順位は35位と低調は否めません。1年間を通してみても一進一退が続いています。
 キリンビールやパナソニックの撤退、シャープの大規模な事業縮小などネガティブな話題が続いています。
 今後もいくつかの工場が撤退を検討していると聞かれ、先に話した「ものづくり大国」を脅かす現象ととらえるべきでしょう。これらを背景に雇用の確保や下請け企業の業績見通しは不安感が漂っていると言えるのです。


表1
※( )の中の数は全国の栃木県の順位です。


表2
栃木県 年商規模による分布



円滑化法終了という節目

 そのような中、いよいよ3月末をもって、3年に亘って効力を発揮した中小企業金融円滑化法が適用期限を迎えました。この間、金融庁の指導の下、各金融機関による徹底した中小企業保護策がなされてきました。「貸し渋り・貸し剥がし」から、一転して「原則、返済条件の変更に応じる」という姿勢に変わったわけです。これによって、資金繰りの厳しい中小企業は延命できました。弊社が集計している倒産件数の推移を見ても明らかです。県内の集計結果によれば、リーマンショックが発生した2008年の倒産件数は134件、その後の世界的な不況が表面化した2009年が160件、しかし、その後は東日本大震災等様々なマイナス要因がありながらも、倒産件数は減少の一途を辿りました。前項で述べたように、企業業績は一進一退であり回復の兆しは見えていません。この1年を見ても、増収に転じた企業は4社に1社程度です。それでも倒産する会社が少ないというのは、まさに、この円滑化法が効果を発揮した結果と言えるでしょう。
 金融機関にとっても、この法律は大きなメリットがありました。少し説明します。金融機関は一定のルールに則り、貸付金が不良債権となる可能性に応じて、損金算入する資金を積み立てなければなりません。この金額は、収益性をダイレクトに逼迫させ、業績を悪化させますから、出来るだけ少ない方がいいわけです。ところが、貸出し案件が円滑化法の適用と認定された段階で、「実質破綻先」や「要懸念先」といった引当金が必要になる不良債権から外れます。すなわち、貸倒引当金を積立てなくて済んでいたという事になるのです。4月よりこの関係が解消されます。決して企業環境は改善されていない中での終了です。実際この1年間を見ても、新たな案件よりも条件変更の再延長(再リスケジュール)が相次いでいました。金融機関は「今後も対応に変化はない」と強調しますが、業績が改善せず、財務体質も債務超過、返済も滞っている企業に対してどこまで応じる事が出来るのか・・・疑問と懸念を禁じえません。県内で推定1万社、1兆7000億円はあると云われる条件変更企業。当局は、政策パッケージの中で、コンサルティング機能を十分発揮するとしています。大いに期待したいものです。

表3
栃木県 景気DI指標


表4
栃木県 倒産件数・負債総額推移



注目業界

 ブライト情報が少ない中ですが、いくつか私が注目している業界をクローズアップしたいと思います。まずは建設業界です。栃木県の会社の38%は建設不動産業者です。従って、この業界にお金が落ちる事は、景気浮揚策として短絡的ながらも最も手っ取り早く効果的な施策なのです。政権交代により、公共投資は増加します。その意味では、低調であった栃木の公共工事請負金額も大きく増加する事が予想され、地元ゼネコンを中心に業績の回復が顕著になるものと思われます。それから、ハウスメーカーは確実に受注増となるでしょう。元々、住宅需要が旺盛な地域であり、消費税引き上げに伴う駆け込み需要の時期を迎えます。ただし、大手業者に人気が集中する事が予想され、中小は苦戦となる様相です。
 次の注目は、老人福祉・介護関連事業です。あまり知られていないようですが、県南地区の足利から小山に至る両毛地区は、この業界の施設の建設ラッシュです。高齢者住まい法が改正された事で、サービス付き高齢者住宅や特別養護老人ホームなど様々な施設が林立しています。建設業者もさることながら、介護事業者、サービス業者など、新規参入業者も散見され、県内外入り乱れての混戦が予想されます。何より、ターゲットを首都圏在住の団塊世代としている点から見れば、無尽蔵の広がりが期待できるのではないでしょうか。
 続いて、メガソーラー事業・太陽光発電業界ですが、まだまだ需要増が見込めると思います。地元の藤井産業をはじめ、大手業者が参入し、候補地が豊富でかつ「冬期の日照時間全国3位」の栃木の環境は、今後、後発業者の参加を促進するものと期待しております。太陽光発電関連ですが、設置工事業者の増加が目立っており、特に最近はいわゆる「屋根貸し」の推進業者が注目を集めています。大型の倉庫や工場の屋根を賃借して、売電事業を展開する業者です。もちろん今後の売電価格にもよりますが、「屋根取り合戦」は県内でも既に始まっています。
 最後に、リサイクル事業の伸展は見逃せません。小山の協栄産業が躍進的な業績を収めています。この会社は、ペットボトルをリサイクルして様々な再生素材を提供していますが、再生ペットボトルを国内で初めて実用化させ、マスコミ各社が取り上げた事で大きなインパクトになりました。また、スクラップ業者がレアメタルの集積基地として見直されているのも事実です。いずれの場合も、旧態依然とした産業廃棄物の処理業者から素材メーカーへの転身がキーワードになっており、今後も益々この業界の新規参入組が増えるものと期待されています。

表5
栃木県 注目業界の業況



今後の課題と提言

 俗に、「攻めの群馬、守りの栃木、どっちつかずの茨城」と評されるように、北関東の中でも栃木県の企業は、あまり外に打って出るという事をしません。よく話すのですが、「自分の会社が宇都宮にあって、仕入先も得意先も宇都宮の企業、取引銀行は足利銀行」・・・宇都宮市内で事業が完結してしまう業者が多いのではないでしょうか。事業内容にもよるのでしょうが、市場は無限だと思います。
 そこで提言の一つ目ですが、「新規開拓に本気で取り組む」事を挙げたいと思います。良い商材を持っていたり、強味となる技術やサービスを有する企業は沢山あります。要は、市場がそれを知らないだけです。しっかりとアピールして新しい販路を築かなければ、いつになっても売上は確保出来ません。既存の顧客だけを相手にしていると、値引き要請や足元を見られた取引条件だけが横行し利益に繋がりません。栃木県の企業が真のグローバル化を果たしたとき、本当の地域活性化が生まれるのだと信じています。
 もう一つの提言は、「与信管理の徹底」です。よく聞くのは、「あの会社が悪いのは分かっているが、長年の付き合いだから止められない・・・」という半分悩みの話です。実際、売掛金が長期に亘って回収できていないのに、次の納品をしてしまう業者が多いのです。行き着く先は連鎖倒産です。焦げ付きが企業体力をどれほど奪うのかを、経営者はよく知っているはずなのです。これも円滑化法の負の遺産なのかも知れませんが、倒産が少ない数年間を過ごした結果、「取引先は倒産しない」「今後もしないだろう」と根拠のない決めつけをしている社長が意外に多いと言えます。間違いなく倒産は増えます。不良債権を発生させないためにも、取引先の管理、取捨選択をお勧めします。
高度成長期やバブル期のような高い経済成長は、当面見込めないと思います。その環境の中でも企業を存続していく秘訣は、「攻めと守り」が整理され着実に実行されている事だと思います。栃木県の中小企業の益々の発展を祈念してまとめと致します。

表6
栃木県の黒字・増収企業数


表7
※栃木ミサワホームは5月決算。



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栃木の活性化の起爆剤に。