株式会社 大高商事 高橋 和夫 社長


ビルメンテナンス業
時代の流れを確実につかむ

ビルの総合メンテナンス会社として着実な歩みを続ける株式会社大高商事。
産学連携にいち早く取り組むなど、時代の転換点を的確につかみ、事業に反映させてきた。高橋和夫社長にその戦略を聞いた。


profile

昭和19年(1944年)宇都宮市生まれ。
栃木県立宇都宮工業高校卒業。昭和40年に兄髙橋文吉氏と有限会社大高商事を設立。
同43年、専務取締役。平成3年に株式会社大高商事代表取締役社長に就任。
公益社団法人栃木県ビルメンテナンス協会会長。


自転車に清掃道具を乗せて飛び込み営業の創業時
高橋 和夫社長
高橋 和夫 社長

 株式会社大高商事は、昭和40年、宇都宮市大曽の間口1間、奥行き1.5間の小さな事務所から始まった。髙橋文吉現会長と高橋和夫現社長兄弟が脱サラして、友人から借りた10万円が資本金の有限会社がスタートだった。何とか自分たちの手で事業を興したい、それも今まで栃木県になかったようなものを、さらに世の中に役に立ちたいと気持ちも強かった。
 選んだ業種はビルメンテナンス業。しかし、当時の宇都宮市内にはビルらしいビルはほとんどない。創業当初は車も買えず、自転車の荷台にバケツや雑巾、モップなどを乗せて仕事に歩いた。東京で建設会社に勤めていた高橋社長には、宇都宮にも必ずビルの建設ラッシュの時代が来るという読みはあったものの、苦しい毎日が続く。
 創業から数年間は商店や事務所の窓ガラスや床のクリーニングが中心だった。やがて宇都宮市内にもビルが建ち始め、県内各地の工業団地への工場誘致なども進んできた。さらに庶民の娯楽としてボウリング場が続々と誕生する。これを好機と見て積極的に営業をかけたのが、第1の戦略的展開だった。これにより契約件数、売上ともに大きく伸ばすことができた。
 しかし、ブームが去って、多くのボウリング場が営業不振に陥ったため、第2の戦略転換を図った。それは「民から官」への切り替えだった。当時、民間の大型ビルはもちろん、地方の官公庁でも庁舎などの施設が続々と誕生していた。この機をとらえ、シフトを転換した結果、さらなる前進を図ることができたのである。昭和47年には株式会社に組織変更した。
 第3の戦略は、それまでの建物の清掃中心から、総合的なビルマネジメントへ広げたことである。清掃単体の契約に加え、空調冷暖房、受変電、給排水、防災消防、エレベーター・エスカレーター設備など、ビル設備全般にわたるメンテナンスと警備業務、受付案内業務の請負に至るまで、ビルマネジメントシステムの構築を図った。これによって県外への進出も実現した。


産学官共同研究で開けた新製品開発の道

 平成に入ると間もなくバブル経済が弾け、官公庁や民間企業で緊縮財政、経費節減の動きが強まってくる。そこで第4の戦略として打ち出したのが「産学官共同研究」による新製品の開発だった。「企業は新しい事業の創出に挑んでいかなければ活力を維持できません。しかし、特に中小企業には、アイデアはあっても研究者や研究設備を保持していく力がない。産業界が持つ現実に合ったニーズと、大学の知恵や知識というシーズを寄せ合い、さらに、行政のバックアップを加えて、社会に役立つ新しい技術をつくり出すのがこの産学官共同研究です」と高橋社長は語る。
 この考え方に基づき、高橋社長が宇都宮大学農学部を訪ねたのが平成8年のこと。折から大学側でも研究成果を社会に還元する方法はないかと模索していた時期だった。こうして開発された第1弾が、農産物などの生鮮品の長期鮮度維持を可能にする保存庫「快蔵くん」だった。腐敗の原因となるエチレンを除去するパネルを組み込み、温度管理などを徹底した画期的な製品で特許を取得している。その後、第2弾として、一定の空間の中に置いて使う鮮度維持機「いきいきくん」を開発した。これは紫外線でカビや雑菌を除去し、エチレンガスを改質させる仕組み。特に花類の保存に適している。
 ビルメンテナンスを主要業務とする会社が、なぜ生鮮品の鮮度維持機なのか。「ビルのメンテナンスは、究極的にはそこで生活する人たちの快適さを確保することです。生鮮品をビルの中の人と見立てれば、これらを安心で安全な環境に置く技術は、私たちの業務に大きくかかわってくるのです」と高橋社長はその意味合いを強調する。
 この理念の延長で、最近、宇都宮大学工学部との共同研究で製品化にこぎつけたのが、空気清浄機「さわやかくん」。高電場プラズマを発生させて室内をほぼ100%殺菌するほか、脱臭効果にも優れている。今後、ますます進む高齢化社会の中で、病院や老人福祉施設などでの需要が見込まれている。さらに、従来の発想を大きく転換し、地球規模の環境を視野に入れた冷暖房装置を開発できないか検討中だ。


給食や指定管理者受託など幅広い事業へ参入拡大
産学共同で開発した鮮度維持機「いきいきくん」
産学共同で開発した鮮度維持機「いきいきくん」

 同社は現在、第5の戦略である「ファシリティマネジメント」の確立に取り組んでいる。ビルマネジメントに加え、多少なりとも関連のある事業を、トータル的にマネジメントして商品開発する。病院や学校、福祉施設などの給食請負、県内市町の保育所や小中学校の給食調理・配送、病院や福祉施設に特化したIT関連のシステム販売・業務支援、公共施設や図書館などの指定管理者受託業務など、幅広い事業に参入拡大を図っている。
 ここでもビルメンテナンス会社がなぜ給食なのかという疑問が出てきそうだが、高橋社長は「食べることにかかわる仕事は、人間が生きていくための生命産業です。ビル管理も人間の快適な住環境を維持する点で、広い意味での生命産業なのです」と語る。
 同社で働く従業員は、本社のほか県内6カ所の営業所、東京、仙台の支店、福島、群馬の営業所を合わせて1500人以上を数える。厳しい経済環境にあって、健全経営を保ちながら従業員を守っていくことは、それ自体が企業の社会貢献ともいえるが、同社は近年の業態の変化を基礎に、なお一層の社会貢献活動に力を入れている。
 例えば食育の活動。学校給食の調理・配送・洗浄を受託している那須塩原市では、同社の調理員が各学校を訪れて児童らとの交流会を開催している。給食の作り方や材料の話などを説明し、食べることの大切さを訴えている。また、指定管理業務を受託している図書館では、地元のボランティアに協力を仰ぎ、読み聞かせや民話語りの会を開いて好評を得ている。子どもたちが図書館を訪れるようになって、来館者や貸出冊数の増加につながっている。
 同社は、事業の分岐点にさしかかると、その都度、先見性と創意工夫で乗り切ってきた。高橋社長はそのポイントは、的確に情報をつかむことだという。「ほしい情報を手に入れるためには、まず自分が情報を発信すること。そうすれば自然に有用な情報も集まってきます。また、自分だけで抱え込まず、国や県、業界団体などの各種制度、異業種交流の場などを活用することです」とアドバイスする。厳しい時代だが、半面、これほど恵まれた時代もない、と若い経営者にエールを送る。



株式会社大高商事
〒320-0075 栃木県宇都宮市宝木本町1474番地5
TEL 028-665-1911 FAX 028-665-1919
URL http://www.daikoh.net

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栃木の活性化の起爆剤に。